話しを聞き出すどころか、一方的に先生が仕切っているこのインタビュー。最初の意気込みはすっかり息を潜め、おとなしく頷いているだけの小林君ですが、先生のコトバは泉のごとく涌き出てくる様で、まだまだとどまることを知りません! |
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神尾 | ん?どうした、小林。もっと色々聞いていいんだぞ。 |
小林 | 聞いていいって・・・。聞かなくても話してくれるじゃないっすか・・・・・ぶつぶつ・・。 |
神尾 | なんだ?はっきりしろ! |
小林 | はい!(気を取り直して)えっと、さっきの話しでネバーエンディング・ミュージカルっていうことが出ましたが、もうちょっと僕にもわかるように教えて欲しいっす。 |
神尾 | いいだろう。ま、なんでネバーエンディング・ミュージカルになり得るかって言うのはさ、全然違うからなんだよ、結果が。あの後またワーッてなってるところにつながってって、また同じように陥ってくっていう流れは世界共通だろ。学校っちゅうもんがあって、義務教育があってさ、民主主義だったらばな。 |
小林 | ふうむ。なるほど。 |
神尾 | そういう全体の中のドラマがあるから、一人一人の細かい芝居なんて大した問題じゃねえんだよ。とにかくきちんとした位置にいなければだめなんだよ。 ただし! 余計なことはするなっていうんだよ。それが僕のダメ出しだよ。それで十分だな んだよ。 |
小林 | 余計なこと・・・。 | |
神尾 | 余計なことって言うのはその人間が、絶対しないであろう行為はするなってことだ。 「それはどう考えても、お前じゃないだろう!」ってことに関してはうるさく言ってたんだよ。 「それは小林じゃないだろう、そんな事小林はするか。」「小林はそんな人間じゃねえよ!」とかな。 | |
小林 | ああ・・・。(ただただ大人しく聞いている小林君) | |
神尾 | (まだ続けて)「小林が人に愛情を持つんじゃねえよ!人に相談をするな!」 小林がしないはずの事をお前がした時に、ダメ出しが出るんだよ。 |
小林 | う〜ん・・・確かにそうだった・・・。 |
神尾 | だから、小林だったらそうするよなってことを、お前がする分には何も問題は無いんだよ。それがさっき言った、お前らが持ってる過去とか生い立ち、目標にしてる将来って事なんだよ。 |
小林 | 僕の生き様! |
神尾 | そうだよ(笑)。 ま、小林だけじゃなくてよ、あけみもな。あいつも段々とあけみになってきたしな!そういう事がおもしろいんだよ。「あけみとして成長していくあけみ」みたいなね(笑)。ただ、へんに人に愛想笑いをしたりとか、ニコッとかかわいいポーズした時にはダメ出ししてたけどな。 |
小林 | あけみがかわいかったら・・・。うん、変だ。 |
神尾 | それをとにかく見なきゃいけないんだよ、僕は。全員に目を光らしてなきゃなんねえから、大変なんだよ(笑)。 だからちゃんと見てんだよ。何にも言われないって事はそれはいいんだよ!ただ自分で何にも考えないでそれをやってたとしたら問題あるけどな。そうしようと思ってやんないと。 |
小林 | ふうむ。 | |
神尾 | 二ヶ月間の稽古はそれを訓練してたんだよ。けどな、舞台見りゃあわかることだけど、あれほど言ったのにダメだっていうことをやってるんだよ、みんな。 だからその役の人間を理解するっていうのは、そんなに簡単な事じゃないっていうことだよ。お客が入った瞬間に忘れちゃうんだからな。自分が一番解りやすいであろうってことをしてしまうんだよ。でもそれが解りづらくしちゃうんだよ。 お前達はそれで毎日同じ事させられてるように思うかもしれないけど、それすらも出来ないんだよ、人間って。なあ、小林! | |
小林 | はい・・・・・・。(何も言えない小林君) |
神尾 | 客が入って芝居をする怖さっていうものを、もっと知らなきゃいけないんだよ。お客の印象っていうのはその時に決まっちゃうんだから。 上手い役者っていうのは、そういうことじゃない。そりゃあもう新劇系の影響を、若い役者が知らず知らずのうちに受けちゃってるんだよ。要するにダメ出ししてくれたりとか、色んな意見を言ってくれる人間になびくから、そうなっちゃうんだよ。頭でっかちで使いモンにならなくなっちゃう。 |
小林 | う〜ん。(唸っている) |
神尾 | 客には関係ねえからな、そんなこと。 お前がメガネかけて、あのコートを着て立ってるだけで「小林」なんだから。それだけでいいんだよ!まずはな。それがハマッてないと、それこそツライんだよ。じゃあ、ブルースが小林の格好してセンターにたってみろよ。やんなっちゃうから、お客サン(笑)。それはもう、そういうふうにインプットされちゃうわけだよ。 そういう第一印象が大事なんだよ。それを裏切るような事はしちゃ駄目なんだよ。 |
小林 | (小さい声で)ふふふ・・・やはり小林は僕でないと・・・・!! |
神尾 | それを何回も何回も訓練する。すごい無駄な作業をしてるんだよ、役者って(笑)。 お前さあ、自分の人生削ってまで、毎日毎日同じ形をしてなきゃいけないんだよ(笑)。ま、違う形でもいいんだけどね、その役にハマっていれば。ただ大概の場合、自分で考えてきたアイディアなんてショボイんだよ(笑)。 |
小林 | ははは・・・・。(力の無い笑い) |
神尾 | だから、それが無駄だなんて言ってんだったら、それこそ役者やってる意味ねえんだよ。 |
小林 | う〜ん・・・。 |
神尾 | そこを追求しなくちゃいけないんだよ。ダメ出しが出ないなんて言ってないで、その形を追求してなきゃいけねえんだよ! |
小林 | 究極を言うと、存在してるだけで何かを感じさせるという・・・・ですか? |
神尾 | まあな。そういうことだ。 小林は小林であって、そこに立ってるからいいんだよ。たとえばな、これがロングランになったとするじゃねえか、で、客が「今日は小林な気分だなあ」って観に来た時に小林がいるんだよ、いつもと同じように(笑)。それがいつもと違ってたらショックだぞ!小林急病のため代役が立ちますってな(笑)。な、それはそれで結構ショックだろ?(笑) |
小林 | すごいショックっすよ!! | |
神尾 | 確かに役としての小林はそこにいるけど、小林には会えないんだよ。 そういう責任感を持って欲しいわけだ。動くとか動かないとか、芝居が足んないとかダメが足んないとかの問題じゃねえんだよ。お客に対してどうかっていうのがプロなんだよ。みんな考え方がアマチュアなんだよ、まだ全然。お客が期待してる、だから休めない、親の死に目にも会えない。そういうこと。 | |
小林 | 存在感・・・っすね。 |
神尾 | そうだよ。人に必要とされてるんだよ。 ま、小林のいない「やさしさをわすれたブルース」はちょっと寒いってことだ(笑)。 稽古中もさ、節子がいない時、節子なしでやったのはすごい良かったよな。ヘタな代役立てるんだったら無い方がいいんだ。 |
小林 | キャストの配役もバシッと決まったんですね(ニコニコ)。 |
神尾 | ・・・ん〜まあ、ぜんぜん完璧じゃなかったけどな、僕的には。だいたい全然仕上がってねえ奴もいたしよ! |
小林 | ああ、そうっすか・・・。 |
神尾 | まあ、それは本人の努力が足りなかったんだな。まったく。だって人に見せてナンボのもんなんだからよ、そういうふうなショービジネスをやりたいっていうシチュエーションも、お前らがわかってねえとな。 |
小林 | でも役者の側からすると、なんか物足りないって言うか・・・。(顔色をうかがいながら)やっぱり、あの、もっと厳しく細かいところまで、死ぬほどダメだしして欲しかったッス。 |
神尾 | ばかやろ!違うんだよ小林!言っただろ!(お説教省略)・・・それと今回の作品では、役者から出てくる自発的なものに期待したんだよ。やっぱり自分で提案して、自分で消化していったのが、今回の作品を新しくしているし、エネルギッシュにしている。それにお前らみたいな大根役者でもスゲー演技してるように見えるしな!何にもしてねえんだけどよ! |
小林 | (すっかり洗脳されて)そうっすね!「小林」ってどんな人間だ?って先生に聞かれて、自分なりに「小林」っていう人間のイメージは作り上げたつもりっす。(鼻息が荒い小林君) |
神尾 | とにかく見た目で外してる奴はいないんだからな。もっとそれに頼るべきなんだよ。ほとんどリアルタイムでやってるんだから。自分とそんなに遠からずだろ? | |
小林 | はい!僕達、若いですから・・・ハイッ! | |
神尾 | 無理してフケ役やらしてるわけじゃない。もしそういう事させるとしたら、当たり前だけどさすがにダメ出しはいっぱい出るよ(笑)。「お前のどこが婆さんなんだよ」とか、「どこがオヤジ なんだよ」とか。自分の見た目にない役をやらされるとシンドイよな。大幅に年齢設定を変えたり、役柄を変えたりするとな。ま、それは役者の宿命だけど。それはそれで作ってるほうも観てるほうもおもしれえけどな。それはそれ、今回の場合はほとんどリアルタイムでやってるんだから。 | |
小林 | ふむふむ。 |
神尾 | ま、今回みたいにエネルギッシュで、荒削りだけど勢いがあって良いっていう評価を得るためには、やっぱりリアルタイムじゃないとだめなんだよ。で、そのリアルタイムなもののはかなさね・・・・。終わっちゃうじゃん、バーン!ってあっという間に・・・・。 そこが評価されたんじゃないかな。 |
小林 | ふうむ。(ただただ頷く小林くん) |
さらに次回に続きます。お楽しみに....