interview minilogo
karadot
終わってみると、あっという間に過ぎてしまったような稽古の日々。あの時は作品を作り上げるのに夢中で考えなかった事、今だから聞きたい事、などなど。初演を終えた今だからできるインタビュー。

常に新しいネタを求めてやまない小林君がとうとう今回の作品で演出家であり、作曲家であり、脚本家でもあった神尾憲一先生に迫ります!
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小林 今日は今回のミュージカルについて、みんなが聞きたかった話、知りたかった事を、僕が先生から色々と聞き出したいと思います。先生、よろしくお願いします。
神尾 おう、何でも聞いていいぞ。なにしろこの作品はお客さんの反響もすごく良かったからな。その中でも「荒削りだけど勢いがあっていい。」っていう評価があったんだけど、一番当たってると思うね、僕は。「今時こんな元気のある作品はない」とも言われたよ。生き生きとしてるんだよね。
小林 嬉しいっすね。
神尾 だけど今回の作品でみんなが一番不思議に思ったのは、どうやってこの作品を作ったかという事なんだよ。演じる側のお前らにとっては自然な事だし、物足りない事もあるかもしれないけど、観たお客さんの印象は、この43人という大人数が、なんでこんなにまとまってるんだ、という不思議があるということだ。お前らも不思議でしょう? でも結局そういう評価があるんだよ。
ステージに立ってる側からすると、「いつもどうりにやってるだけ・・」とかさ、「立ってろって言われたから立ってるだけですけど・・」ってことだろうけど(笑)。
小林 まあ、そうっすね・・・。 でも僕にとって難しかったのはそこなんですよ。立ってるだけで何もするな・・・とか。
神尾 kami2もっといろんな事したいんだけど、ダメが出てるから何にもできない・・・とかな。じゃあ、どうすりゃいいんだ、って言ってる形のまんま止まってるわけだよね。でもお客にはそんな役者の心情はどうでもいいからね。止まってる形がお客に伝わるんだから。役者本人の心情じゃない。そこを理解して、もっと大人になれば、役者はその美しさに対して自分がナルシストになれるんだよ。
小林がそこに立って、「あ、あそこにいる娘かわいいな」とかなんとか考えていようが、お客から見えている印象っていうのは一緒なんだよ。どう見えているかが大事なんだよ。見た目。内面なんかどうだって良いんだよ。そう見えているって事を強く感じられなきゃプロにはなれないね。
それに音がのった時に、客のイメージがふくらむ。それがミュージカルの原点だと思うよ。それをこの間うちらはやって見せたんだよ。ストップモーションがカッコ良かったという声もあったんだから。
小林 (頷きながら)うーん。なるほど・・・。
神尾 とにかく立ち位置の美しさに関しては天下一品だよ。特に小林ラインは厳しかった分良かったんだよ。あの小林ラインの美しさがわかる?(笑) 一番小林がデカク見えるようになってるんだから。お客がどう見るか。見てる人の気持ちが大事なんだよ。演じてる者はそこに欲求不満を感じるんだけど、それがなければ役者じゃないよ。
もっとこなれてくると、止まっている自分の美しさに対してプライドが出て来るはずなんだよ。その形、その位置に居る理由とか必然性が見えてくるんだよ。それがわからないところが初演の苦しみであり、良いところなんだけどね。
小林 そこに立ってるだけで、すごく人に何かを感じさせるものを持っていることの方が、凄い意味があるっていうことですか? 何かをやるっていうのではなくて・・・。
神尾 そうそう、そういうこと。
小林 でも稽古中は神経質にもなるし、繊細になるじゃないですか。そこのところで葛藤しましたね。
神尾
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もっとダメ出ししてくれればいいのに・・・とかな。でも誰も言わないじゃん(笑)。みんなの前で宣言して出来なかったら大変だからな(笑)。
僕はダメな時にはちゃんとダメって言ってるんだよ。それはいつもと違うことしたり、するなって言う事をした時だよね。その人間が絶対しないであろうことをした時には僕はダメを出したよ。言われない時はそれでいいって事だよ。
それと、役者自身の中から出てくるものが自然であれば、それはもらいなんだ。ただしいつもうるさく言ってるのは自分の持っているスペース、立ち位置だよね。客から見てて、距離感だけで誰が今主導権を持っているのかっていうイメージはあるでしょう。今センターに立っている役者だけがセンターじゃないんだよ。話の軸っていうのは常に変わる。当たり前だよな! 今まで聞き役だったヤツだって言いてー事はあるしよ! 舞台をこーやって回してよ、そのまま見る角度を変えるんだよ。そうすっとよ、話の見えかたも変わるってもんだ。こりゃ舞台ならではだよな。すげーよな!
小林 そういうふうにバシっと言ってもらえると分かるんですけど・・・。
神尾 まあ、言う順番があるんだよ。せっかちになっちゃ駄目。あいつには2週間待ちだな、とかね。そうじゃないと言う事聞かないんだよ、役者は。そこらへんのかけひきはあったね。
役者が考えてる事を理解して、返してあげる。「あ、それは聞けない。まだだ、却下」「それはいい、やれ」ってね(笑)。それも常に即答出来なきゃいけない。それが僕の仕事なんだよ。難しく考えたりとか、いちいちこっちがナイーブになったりとかは駄目なんだ。
役者に対しても、話しを聞いてあげないからいいんだよ。僕の人間性や、どんな生活をしてるとかは、作品を作る上では二の次なんだよ。
小林 はあ・・。でもちょっと物足りないような・・・。
神尾 それがいいの! だけど一番最初のカンパニーだから、本当はすごくかわいいんだよ(笑)。
小林 (ホッとしたような笑顔で)はい!

kami7
最初の子はかわいいとはまさにこのことでしょうか。
でもやっぱり兄弟はいたほうが良い・・・と言う話しから続きをどうぞ。

神尾 ハッキリ言って翌月に次の作品のオーディションやるなんて、気持ちが切り替わら無いんだよ。ほんと言うと(笑)。
だけど、それをやるのはお前らのためだし、次から次へそれをやっていかないとライトリンク・ミュージックの事業としてショー・ビジネスをやりますっていう提案の意味がなくなっちゃうんだ。
小林 ショー・ビジネス!!
神尾 そうだよ。ショーとかレビューとかいうと、安っぽかったりするのは日本的だと思うんだけど。でも、そんなことはない。人を喜ばすことができる、人を元気づけることができるって考えたらそりゃあもう、いくら払ったって良いっていう次元の問題なんだよ。
そろそろ新作観たいよねって時に次の作品が出るでしょ。そうやって次から次に作品を作っていかないと。「やさしさをわすれたブルース」のパート2はいらないんだよね。
もし「ブルース」のパート2をやるんだとしたら、ブルースのその後、とかその以前の話になるわけだよ。他の劇団がやってるようなバージョンアップはやらない。キャストが変わったら違うドラマになっちゃう。
小林 (力強く)ふむ。
神尾 だから敢えてつじつま合わせもしなかったし、結論も出してないからね。誰もブルースが死んだなんて言ってないし・・・。みんなが卒業していく中、小林たちは出て来ないし。ハハハハ(笑)。
小林 ・・・ハハハ(笑)。
神尾 わかんないから面白いんだよ。今回の作品の人物達は、大体自分の中にあり得るであろう人物とか、これからの経験でも出会うであろう人物のコマが揃っていたと思う。ほとんど全て網羅してると思うよ。それが良いんじゃないかな。自分の中のブルースがいたり、自分の中の小林君がいたり・・・。節子がいたり、民夫がいたりとかさ。それでやっぱり一番やな奴の象徴はナイフだったり。僕はそうやって自己投影してもらうのが目的だったんだよ。
小林 その目的は果たせたと・・・?
神尾 うん。そういう点ではホントにストレートに伝わってるから、良かったなと思うんだよ。
小林 それにしてもノンストップで二時間半という芝居はボクも経験した事ないっすよ。
神尾
kami5
うん。でも歌が入ってるから、実際の情報量はそれ以上、もっと多いんだよ。
もしこれがストレートの芝居だったら、節子と民夫のくだり、節子とナイフのくだりなんてとてもじゃないけど観られたものではないよ(笑)。多分あれだけで終わりだと思うんだよ。
例えば「そう言う事があったよね」って全部セリフでしゃべって、それでもうすでに民夫と節子の学園祭が始まるっていう流れで、一幕はナイフが節子に告白するってところで終わるんだよ。で、二幕開いてみるとナイフと節子が付き合ってて、これはどうしたことかってそれを追いかけるようなドラマがあってさ・・・(笑)。
ちょっと方程式が違ってくるでしょ。要するにストレートの芝居は、時間枠をもっと大きな枠で入れ替えたりする事で説明するんだよ。「こういうことがあったよね」って口で先に言えちゃうから。
小林 今回の作品についていうと?
神尾 今回やったのは、どうなっちゃうんだろう、どうなっちゃうんだろうっていう。初めて観る客にはわかんない事だらけだよ(笑)。
あんだけ20分もプロローグやってて「助けてやったお礼に8月のライブのチケット買ってけ、安くしとっからよ」ザバーン(波の音)で終わっちゃうんだぞ(笑)。お客サンにしてみたら消化不良ったらありゃしない(笑)。どうなるんだこれは!ってところで終わっちゃうでしょ。
小林 観る側としては確かに分からないかも知れない・・・。
神尾 それでもお客を引っ張るんだよ。強引に。8月のライブ(注:アツイゼっBaby!)にしたって、お前らはト書きで知ってるけど、お客にしてみたらあれは一体いつのライブなんだろうって思うわけ。出てる人一緒で、立ち位置も同じだし、回想シーンかなって思うかもしれないよ。で、節子がヤケに明るいでしょう。一ヵ月後にしてあの立ち直り様は異常だよね。でも一ヵ月ってそれ位の時間なんだよ。いや、ストレートの芝居にしたらそれは異常だよ。あんなの。だけど、人間一ヵ月もあったら案外立ち直れるんだよね。そういうタイプの人間だったら。っていうことだよね。
だけど民夫と節子がやって来たあの瞬間、お客は前にやったプロローグの回想シーンのライブとダブるはずなんだよ。そうするとこれは、まだ回想シーンが続いてるんだなって思うところでナイフが出て来て「あれこないだの女じゃねえか」って言うんだよ。そうやってお客を常に裏切ってるんだよ。
小林 裏切っていいもんなんすか?
神尾 いいんだよ。だからお客はいつもドキドキして観てられるんだよ。でもそれは演じてる側のイメージとは違うんだよね。
小林 ああ、そうですね。節子もなんか言ってましたよね。
神尾
kami4
うん。「あたし、一ヵ月でこんなに明るくなっちゃったらおかしいと思うんですけど」って言ってきたよ。でも僕はそれで良いとしか言わないからね(笑)。だから役者は自分で一生懸命消化しようとするんだよ。でもそれぐらいにしといてもらわないと困るんだよね。その後の事を考えると。ナイフが出てくるから。そしてブルースがぶん殴るところにつながるでしょ。
ここはお客が一気にスッキリするところなんだよ。前にブルースは助けてないからね。で、それで終わりかと思うとあけみっていう女が出て来て、ブルースの女だって発覚するんだよ。つまりお客はドキドキしっぱなしってわけだ(笑)。
小林 ウォーッ!!
神尾  ・・・・・? まあ、それが一発目の印象だよ。二度目に観る時は冷静になって観れる要因も作っておかなきゃならないでしょう。やっぱり何回も観に来て欲しいからね。その時のためにあるのが、お前達が持っている生い立ちってやつなんだよ。自分自身が持っている生い立ちってもののほうが、どんな良い芝居することよりも大事な事なんだよね。お客に伝わっていくものとしては。そういうふうな構成になってるんだよ。
小林 生い立ち・・・。(考え込んでいる)
神尾 kami3だからストレートの芝居では出来ない事をやってるんだよ。季節の移り変わりと共に芝居が流れていくから。それはもう、音楽表現ならではのものだよ。
それで音楽表現の怖さははじめのプロローグで見せつけられてるんだけど、いきなり砂浜がライブハウスになっちゃって、それがまた砂浜になっちゃう・・・。というのを先に見せちゃってる。あれを見せられる事によってお客の時間枠がおかしくされちゃうんだよ。で、最後には何もなくなっちゃう。寂しいよね。あっけないんだよ。まあ、この作品のテーマだね、「あっけなさ」というのは。だからこそ最初の登場はカッコ良くしたかったんだよね。あの印象と、最後にあっけなくバイバーイって散っていく生徒たちとのギャップって凄いよ。だからネバーエンディング・ミュージカルになり得るんだよ。
小林 終わりの無い・・・。
神尾 そう。最後まで観終った時に、また7月の回想シーンから始められるんだよ。

次回に続きます。お楽しみに....


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